定石を覚える前に
手順を暗記する前に、その手が何を得ているかを言葉にしておく。説明は常に「いま打つ側」から書く。各図では合法手を1手打てる。戻すときは下のボタンを使う。
緑は勧めたい手、赤は悪手、黄は状況次第、灰は相手が次の手番で置ける候補。
盤上の数字は Edax の石差で、常に黒から見た値である。プラスは黒有利、マイナスは白有利。白番でも符号はひっくり返さない。白番の図で -18 なら、白が18石分有利という意味である。
このページの目的
定石は暗記帳ではなく、基本原則の具体例です。
虎や兎の手順を覚える前に、その手が何を狙っているかを知っておくと定着が早い。定石は特殊な魔法ではなく、少なく返す・壁を避ける・内側を返す・好手を先に取る、といった原則を序盤の形に落としたものだ。
ここからの項目は、盤を見たときに「自分は何を得ようとしているか」を言語化するための語彙である。名前を暗記する必要はない。局面で同じ狙いが見えるようになれば十分だ。
図は黒番。緑の c5 は内側の d5 を1枚返す。辺に張り付かない。
黒番。緑の c5 は内側の1枚。Edax 評価(黒石差) -1
序盤は少なく取る
序盤の得点は、終局の得点ではない。
序盤にたくさん返すと、自分の石が盤の中央に増え、相手が次に挟める対象が増える。返した石のまわりは空いており、相手の合法手も広がる。
だから序盤は、いま何枚取れたかより、次の形を見る。同じ局面で3枚返す手と1枚返す手があるなら、まず少ないほうを見る。定石の初手が1枚だけ返すのも同じ理由である。
図は黒番。赤の d6 は白を3枚返せるが中央が開く。緑の f3 は e3 の1枚だけ返す。
黒番。赤の d6 は3枚、緑の f3 は1枚。Edax 評価(黒石差) +5
1石返し
返す枚数は、少ないほど次が読みやすい。
同じ手番に、返す枚数の違う手が並ぶことがある。1石返しは盤面の変化が小さく、相手に新しい挟みを与えにくい。
好手が複数あるときは、まず返す枚数が少ない手を候補に置く。枚数そのものより、次にどんな形が残るかを見る。
図は黒番。赤の b5 は白を2枚返す。緑の e3 は e4 の1枚だけ返す。
黒番。赤の b5 は2枚、緑の e3 は1枚。Edax 評価(黒石差) +3
壁を作らない
自分の壁は作らず、相手の壁は壊さない。
壁とは、辺の手前で自分の石が一直線に連なり、その方向へ打てなくなった形である。内側は守れているように見えるが、次に打てる場所が減り、相手は外側から触って削れる。中央で石が隣り合うだけでは壁とは呼ばない。
標語は「作るな、壊すな、壊させろ」。自分の壁は作らない。相手の壁は自分から破らない。破らせる打ち方は、あとの引っ張りで見る。
図は黒番。赤の c2 は上辺の手前へ寄り、打ったあと c2・c3・c4 が縦に連なる壁になる。緑の e3 は内側で e4 を1枚返すだけで、辺の手前には連ならない。
黒番。赤の c2 は辺の手前へ寄る。緑の e3 は内側。Edax 評価(黒石差) -1
隅・C打ち・X打ち
角は強く、Xは危険、Cは状況次第。
隅(a1 など)は一度取るとほぼ返されない。終局まで自分の目として残ることが多い。ただし序盤から隅を取りにいく必要はない。取れる形が整ってからでよい。
X打ちは隅の斜め隣(a1 に対する b2)で、相手に隅を渡す原因になりやすい。C打ちは隅の隣(a1 に対する a2 や b1)で、辺の形次第でよくも悪くもなる。入門では「Xは安易に打たない」と覚えておけば足りる。
図は黒番。緑の f4 は内側の好手。赤の b2 は X 打ち。着手後は、悪手の b2 を打つと白が隅 a1 を取れる形を見る。
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黒番。緑の f4 は内側。赤の b2 は X。Edax 評価(黒石差) 0
確定石
二度と裏返らない石と、それを急がないこと。
どの方向からも挟めなくなった石が確定石である。典型は隅と、隅から辺へ連続した自分の石である。終局まで自分の目として残る。
ただし序盤に確定を増やそうとして辺へ寄ると、壁や X 打ちの危険と引き換えになりやすい。確定は終盤の収穫である。序盤は「あとで確定にできる形か」だけ見ておけばよい。
図は白番。黒が X の b2 を打ったあと、白は黄の a1 で隅を確定できる。ただし今の好手は緑の c5 で、隅は急がなくてよい。
abcdefgh
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白番。黄の a1 で隅を確定できるが、今は急がない。Edax 評価(黒石差) -18
中割りと開放度
囲まれた内側の石を返す。周りの空きが少ないほどよい。
中割りとは、周りを他の石で囲まれた内側の石だけを返す手である。返した石の隣に空きが無いと、相手の打てる場所はほとんど増えない。
返した石のまわりにある空きマスを数えたものが開放度である。開放度0がきれいな中割りで、数字が小さい手ほど好手になりやすい。外側の石を多く返すと開放度は大きく、相手に接点を渡す。
図は黒番。緑の f5 は e4 を返し、e4 の8マスがすべて埋まる(開放度0)。赤の b5 は外側の c5 を返し、開放度は5になる。
黒番。緑の f5 は開放度0。赤の b5 は開放度5。Edax 評価(黒石差) +1
引っ張り
自分の塊の側へ寄せ、相手に壁を破らせる。
中割りが相手の内側を掘る手なら、引っ張りは自分の石が集まっている側へ打つ手である。自分の塊を厚くしておくと、相手はその厚いところを破らないと奥へ出られない。
自分から塊を割って向こう側へ出ない。石が上下や左右に分かれたら、自分の色の側へ寄せる。壁の項で見た「壊させろ」も、この寄せが先にある。
図は白番。緑の f5 は白の塊側へ寄る。赤の f3 は黒のいる上側へ出る。
白番。緑の f5 は自分の塊側。赤の f3 は向こう側。Edax 評価(黒石差) -1
先着
相手が次の手番で置ける好手を、自分が先に取る。
ここでいう相手の好手とは、相手が次の手番で置ける良いマスである。そのマスに自分が先に打ってしまうのが先着である。空けると次は相手の手番になり、そこを取られる。
中割りや引っ張りが両方に見える局面では、手順の前後で評価が逆転する。定石の「この順でなくてはならない」も、先着を逃さないための約束であることが多い。
図は黒番。黒も白も、次の一手として f5 に置ける。緑の f5 を先に取れば、同じ利を白の次の手番に渡さない。
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黒番。f5 は白が次の手番でも置ける。空けると次は白の手になる。Edax 評価(黒石差) +1
消去
相手が次の手番で置ける好手を、打てないようにする。
相手が次の手番で置きたいマスが見えているなら、そのマスを打つための種石を消すか、挟みの条件を壊して合法手から消す。これが消去である。先着が「次に置けるマスを自分が取る」なら、消去は「相手の次の手番からそのマスをなくす」。
図は黒番。灰の c5・e3・g5 は、白が次の手番で置ける候補である。緑の e6 を打つと種石の色が変わり、灰の3手は白の次の合法手から消える。
黒番。灰の c5・e3・g5 は白が次の手番で置ける。緑の e6 で種を消せる。Edax 評価(黒石差) 0
悪化
相手が次の手番で置ける好手を、残したまま価値だけ落とす。
先着・消去・悪化は、相手が次の手番で置ける好手を防ぐ三手法である。防ぐのはすでに打たれた石ではなく、相手の次の一手になりそうなマスである。消去がそのマスを合法手から消すのに対し、悪化はマスを残したまま、付近に打って打ちにくくする。返す枚数が増える、壁になる、開放度が上がる、といった形に変えておく。
図は黒番。灰の g5 は白が次の手番で1枚だけ返せるマス。緑の f6 はそこを消さない。打ったあと、白は次の手番でも g5 に置けるが、返す石は f4・f5・e5・d5 の4枚になり打ちにくくなる。
abcdefgh
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黒番。灰の g5 は白が次の手番で1枚返せる。緑の f6 はそこを消さない。Edax 評価(黒石差) +3
分けて打つ
一度にまとめず、手数を増やす。
相手の一塊を一度で全部返すと、そのあとに自分が打てる場所が減る。途中で止め、別の接点を残すと、のちに同じ地帯へもう一度着手できる。
終盤の手数勝負では、打てる回数が石差より大事になる。中盤からまとめてしまわず、分けて残す意識があると、あとからもう一度着手できる。
図は黒番。白の d 列に対し c3・c5・c7 と接点がある。緑の c5 だけ打ち、黄の c3 と c7 を後の手として残す。
黒番。白の列に対し、接点が複数残っている。Edax 評価(黒石差) -1
余裕手の下準備
一方にしか打てないマスは、今すぐ打たなくてよい。
余裕手とは、どちらか一方にしか打てないマスである。相手は打てないので、いつ打ってもよい。終盤の手数合わせやパス回避に残しておく。
下準備とは、そのマスが自分だけ合法であり続けるように周囲を整えることだ。今の本手を先に打ち、余裕手は残す。
図は黒番。緑の e3 がいまの本手。黄の g3 は黒にしか打てない余裕手なので、今は急がない。
黒番。黄の g3 は黒にしか打てない。今の本手は緑の e3。Edax 評価(黒石差) +16
偶数理論の入口
終盤は何枚返すかより、誰が最後に打つか。
つながった空きマスのまとまりを区画という。石で囲まれて他の空きとつながっていないところが一つの区画である。空きは上下左右に隣り合うと同じ区画になる。
区画に自分が先に入ると、空きが偶数個ならその中の最後の一手は相手になり、奇数個なら最後は自分になることが多い。3空所なら先に入った側が最後を打ち、4空所なら先に入った側は最後を打てない。だから偶数の区画には自分から入らず、奇数の区画に先に入る。主に白番の終盤で使う考え方の入口である。細かい区画計算は定石のあとでよい。
図は実戦から進めた黒番の終盤である。奇数3空所が2つ(a1・a2・b1 と g8・h7・h8)、偶数4空所が2つ(a7・a8・b7・b8 と g1・g2・h1・h2)ある。緑の h8 は奇数3空所に入る。黄の偶数4空所に自分から入ると、残った3空所の最後は白になる。
abcdefgh
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黒番。緑の h8 は奇数3空所。黄は偶数4空所が2ブロック(今は打てない空きも含む)。Edax 評価(黒石差) +16
次は定石へ
原則が頭にあれば、手順は形として残る。
縦取り・虎・兎・猫・牛・鼠・並び取りは、ここまでの語彙の組み合わせである。少なく返し、壁を作らず壊さず、中割りと引っ張りを取り違えず、先着と消去を間違えない。それが序盤の本線に見える。
ガイドで黒番・白番・両方と打ち、なぜそのマスが緑なのかを、このページの言葉で説明できるようになれば十分だ。自分は何を得て、相手の何を壊しているか、が言えれば定石は形として残る。
収録定石を打つ